35年前のショートストーリー
2017年 02月 17日

つまらない講義を出抜けして
ぶらりと歩いていたら
カフェに呼び止められた。
古い倉庫を改造した
雰囲気の良いカフェだった。
ドアを開けて入ると
いきなりスコーンの焼けた甘い香りに包まれた。

静かなアコスティギターの曲と
静かなざわめきが、
居心地の良いカフェだと
語っていた。
こんなカフェに1人で入るのも
久しぶりのこと。
店の店主らしい女性が
空いている席のどこでもどうぞと
優しげに語りかける。
窓辺に近い席にバインダーノートと
マクロ経済学のテキストを置いて
メニューに目をやると
OLD5のフレンドがあるのが目に付いた。

いつも行っていたあの店と同じコーヒー。
少しだけ複雑な思いが心をよぎった。
ブレンドコーヒーを頼んで
ふと周りを見回すと
どの席も女性ばかりで男は僕1人。
なんとなく1人浮いているのは
分かっていた。

最初はあんなに心地の良かった空間も
僕1人だけだとこんなに違ってくるのか。
いつも彼女がいたおかげで
この手のカフェも心地よかったのだと
今になって気がついた。
コーヒーを飲みながら
なんとなく
そこは自分の居場所ではない気がして
しかたがなかった。

いつもだったら、
こんな風にカフェに呼び止められれば
心地よい時間が過ごせるはずだった。
他愛もない会話に和んで
ゆったりと流れる時間に
身を任せていられたはずだ。
仕方がない。
自分で選択したことだ。
そこに後悔と懺悔しかないとしても。
コーヒーを一杯だけ飲んだら
店を後にしよう。
もう少し時間が経てば、
このゆったり流れる時間にも
馴染めるようになるはずだ。
少しだけ心にリハビリが必要なだけ。
そう自分言い聞かせ、
少しだけ苦味の強いコーヒーを
飲み込んだ。
春になればきっと
この店も心地よく感じられるようになるはずだ。
by darjeeling_days
| 2017-02-17 23:07
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