「ここではない、どこかに移動するということ」

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去年のGWに思い立って収集を開始した、駒沢敏器の作品。没後10年たって、そろそろ入手困難なものも散見されるので、今のうちに集めておこうと思って始めたのだけれど、1年近くたってずいぶん作品リストは充実して、主だったものは入手できているはずだった。

ところがだ。ひょんなことからいろんなところから湧き上がってくるのが、敏器の作品だ。たまたま登録しておいたメルカリで突然UPされた本の中に敏器の作品が掲載されていたのだった。

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『LIPSET BOOK A to Z for BON VOYAGE/旅と海をめぐる、26文字の冒険』。
2000年初頭、丸の内に出来たセレクトショップ”リプセット”のコンセプトブックだった。
M 16のデザイナー村松周作監修のショップでワールド資本でスタートしたセレクトショップだけあって、そのコンセプトブックも「人生を上質に旅をする」をテーマに、アルファベット26文字から始まる様々なカルチャー、エッセイ、写真が掲載され、とてもお洒落に仕上がっているものだ。

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巻頭がなんと池澤夏樹の「南極はどっちだ」だった。デザイン評論家の柏木博、アウトドアファッションイラストレーターの小林康彦、ムーンライダーズの鈴木慶一、伝説のエディター永森博志、写真家三好和義、松山猛、自動車評論家の大徳寺有恒、ヘタウマ絵の元祖安西水丸、元暮しの手帖編集長松浦弥太郎といったそうそうたる執筆陣に混ざって”駒沢敏器”の名前があるのは、何とも誇らしかった。

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敏器は、この本でROAD MOVIE[ロードムービー]という主題に対して「ここではない、どこかに移動するということ」と題して、アメリカ人の描いた映画の中にみられる移動という行為、アメリカ人の中に善として存在する移動を、ロードムービーとして解析しようと試みる。

実際の二度にわたる敏器自身のアメリカ大陸横断という旅の中で、彼は、そのような旅を経験することで、映画の画面の中では描き切れない精神性や身体性を感じることができることができるようになったといい、その根底に、彼は、移動することで古代から歴史を作ってきた人間の中に発露する旅への本能は、遺伝子に書き込まれたものだったのかもしれないと結ぶ。

「ここではない、どこかに移動するということ」。敏器にとって、それは人生を二分する体験だったようだ。アメリカ大陸を横断する前と後。そこまで大きく彼を変えた彼の旅は、2005年の彼の作品『語るに足る、ささやかな人生 : アメリカの小さな町で』に描かれている。

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そしてもう一つ。2009年にINAXとのコラボで雑誌Coyoteに掲載された「理想を形にするデザインの旅」。これはすでにNo.2を入手していて、No.1を探していたのだけれど、これをスイッチコーポレーションで担当した方が連絡をくださり、No.5まであるということが分かったのだった。そこで今回入手したのが、Coyote No.34、No.36、No.37。2009年の1月から7月に発行された雑誌だ。
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それは、シカゴの町の意標であったり、京町屋の日常だったりした。その中で敏器は、上の『LIPSET BOOK A to Z for BON VOYAGE/旅と海をめぐる、26文字の冒険』でも執筆陣として登場するデザイン評論家の柏木博と組んだコラボだった。

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それは、シカゴの町の意標であったり、京町屋の日常だったりした。その中で敏器は、上の『LIPSET BOOK A to Z for BON VOYAGE/旅と海をめぐる、26文字の冒険』でも執筆陣として登場するデザイン評論家の柏木博と組んでいた。

「時間の質を高める空間」という第四回目の記事で、敏器は「何を持つかではなく、どう暮らすか。実現は自分次第だ。」という文章を掲載している。幸田露伴の娘、幸田文の『幸田文しつけ帖』をテキストに、”道具と人の意識のありよう”に注目したうえで、物や道具との関係性において、いかに暮らす人の発想や願いが発露するか、そしてそこに好ましい関係性があることで自分が自分を豊かにするのか、そいういうことにきちんと気付けとさとすのである。

どの文章も静かな深みがあり、読んでいて心が楽になる。深淵まで掘り下げた思いテーマの暗い小説ですら、敏器の文章は美しく視座が多彩なのである。こういう文章を読むとき、単に昔親友だったという”枠”を超えて、僕は単なる敏器の文章の単なる熱狂ファンになるのである。もっと読みたいと素直に思う。だからなのだ。まだどこかに転がっているはずの、敏器の文章を探す旅を続けているのは。

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駒沢敏器『ボイジャーに伝えて』出版プロジェクト進行中。
既にAmazonボイジャーに伝えて予約可能です。
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by darjeeling_days | 2022-05-28 10:10 | book:本 | Comments(0)

美味しいものを食べて、旅して、写真を撮って、本を読む。そんな日常の極上の楽しみを切り出した、至極個人的なブログです。https://www.tearecipe.net/


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